第2回講座「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」

 近江には国宝、重要文化財を含む多種多様な文化財が伝わっています。滋賀県ではこれらの文化財の保存と公開について、行政や博物館においてそれぞれが取り組んできました。
 これまで一般に知られてこなかった文化財調査や修理事業の実際、保存上の知識などについて、行政と博物館の協働のもと、専門的・具体的な最新情報を皆さんにわかりやすく具体的にしていただこうと文化財講座を開催しています。

6月30日(土) は、滋賀県教育委員会文化財保護課の井上主査を講師に、「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」と題して、滋賀県立琵琶湖文化館で開催されました。
第2回講座「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」
 
「古経典?!緊急調査?!そんなのやってたん???」と思われる方も多いはず・・・

 滋賀県教育委員会では、平成15年度から「滋賀県古経典緊急調査」を実施しています。近江では奈良時代以来、経典類が盛んに受容・書写され、たくさんの美しいお経や僧侶の勉強ノート(聖教)が伝えられています。それらは紙や書の文化史を伝える遺産でもあり、また奥書などに忘れられた歴史の事実が隠され、大切な歴史の証人でもあります。
 ところが近年、惣村と呼ばれる中世村落が伝えた古経典などには、保存に危惧を抱かせる例も多くなってきています。貴重な古経典を守るため、県教委が研究者や博物館と協働して文化財保護を目的とした基礎調査に取り組んでいるのが「古経典調査」なのです。

 講座で紹介された一例を挙げると・・・  
  ・「鉄眼版一切経 初刷禁裏献上本」(日野町松尾 正明寺) 
      鉄眼版=江戸前期の黄檗僧・鉄眼道光(1630~82)が開版した約7000冊の経典集
             →日本で初めて本格的に流布した版本一切経
              →その初版本(最初に印刷された本)であることが調査により判明!!
                ☆平成17年4月20日、滋賀県指定有形文化財(美術工芸品)となる
                  同時に、正明寺経蔵も滋賀県指定有形文化財(建造物)に
第2回講座「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」

   ・五部大乗経の調査について
      五部大乗経とは→天台思想を背景に、 ダイジェスト版大蔵経として流行!
         (※五部:法華、華厳、涅槃、大集、般若各部)
      近江に伝わる五部大乗経
         ①大津市北小松 樹下神社 190帖   ②東近江市山路 上山神社 約100巻
         ③愛荘町松尾寺 金剛輪寺 157巻   ④甲賀市甲賀町 油日神社 200巻
         ⑤余呉町坂口 菅山寺 調査予定     ⑥高島市中牧 大宮神社 調査予定

   ・ 大般若経の調査から
       滋賀でまだまだみつかる大般若経
         ①愛荘町松尾寺  金剛輪寺
             新たに87巻=源敦経発願経 巻子装、写経、平安時代後期(院政期)
             書道史的、歴史的な価値が高い
         ②東近江市山上町 前野祈祷講(霊感寺保管)100帖 折本装、版経 鎌倉時代後期
         ③東近江市青野町 大龍寺 600帖

   ・その他の経典、聖教類
        紺紙金字法華経(数カ所)
             聖教類 米原市 成菩提院
                   愛荘町 金剛輪寺→膨大かつ貴重文献多い (平安~江戸時代)

また、京都新聞(H19.6.22掲載)にも紹介された「医馬抄」(愛荘町 金剛輪寺)についてもお話がありました。
第2回講座「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」
  「医馬抄」とは、馬の病についての医学書のことで、写真資料の場面では「七転八倒する腸詰まりの馬」が描かれています。「医馬抄」には、病の種類と薬の処方、呪符の調製など治療法や具体的症例が詳しく掲載されています。これは、16世紀前期(およそ大永~享禄年間)に作成された書写本であるかと思われます。この種の医学書としては最古級となる貴重な資料です。

また、「古経典調査」がどのように行われているか、その作業風景もご紹介いただきました。
 ①虫損、破損、糊離れ、過去の「調査」等で傷んだ経典
第2回講座「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」
 ②裏打ちを外す
 ③バラバラになった本紙の順序をもとに戻す(電子大蔵経CBETAも活用)
第2回講座「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」
 ④調書作成(法量=採寸、書誌学、歴史学、仏教学、国語学的調査)>
 ⑤沈糊をたいて裏ごし
 ⑥糊離れした本紙を紙継ぎ
第2回講座「古経典の美とこころ-緊急調査からの速報-」
 ⑦写真撮影

これらの調査のおかげで、さまざまな資料が新たに見つかっています。「古いお経を大切に、経箱や仏壇のふるいお経を“ひもといて”みませんか?」と講師の井上氏は仰っていました。「危険なお経?!を見つけたら、お知らせ下さい!!」・・・とも?!

講座ではスライドで紹介されていましたが、最後に受講の皆さんには、文化館に展示されている実物の経典も御覧いただきました。

「お経=有り難い」という見方だけでなく、「後世に受け継ぐべき、近江の文化遺産」としても認識していただけたのではないでしょうか。

次回、第3回の「知れば知るほど奥深い滋賀の文化財講座」は、『県指定矢川神社楼門解体修理から見えてくるもの』と題しまして、7月28日(土)午後1:30より滋賀県立琵琶湖文化館(TEL077-522-9634)で開催します。
受講は無料(但し入館料が別途300円必要)ですので、みなさんお気軽にご参加下さい。


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2007年07月09日 Posted by滋賀の文化財 at 17:22 │Comments(0)滋賀の文化財講座

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